Estimating the economic impact of park-and-ride in Bangkok / バンコクのパークアンドライドを検討してみる

 バンコクでのパークアンドライド導入した場合の経済効果の推計

1. はじめに

バンコクの慢性的な交通渋滞を緩和し、経済活動の効率化を図るために様々な施策がとられています。その中に「パークアンドライド(Park & Ride)」も検討されていることかと思います。本記事では、パークアンドライドの導入によって生じる経済効果を推計し、さらに渋滞緩和がもたらす都市全体の経済的メリットについて考察します。

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2. 直接効果

2.1 走行距離と燃料費の削減

パークアンドライドを利用することで、都市部への車の乗り入れが減少し、結果として燃料消費量が抑えられます。600万台の車が走っているといわれるバンコクで渋滞に影響を与える車を20%(150万台)と仮定して進めていきます。

  • 対象車両数: 1日あたり150万台のうち30%(45万台)がパークアンドライドを利用
  • パークアンドライド導入後の走行距離削減: 片道20km → 10kmに短縮(往復40km → 20km)
  • 燃費: 渋滞時5km/L 
  • ガソリン価格: 1Lあたり40バーツ

年間燃料費削減額の推計

  • 1日あたりの削減量(L) = (40km - 20km) ÷ 5km/L = 4L/台(渋滞場所の走行がなくなる)
  • 年間削減量 = 4L × 45万台 × 365日 = 6.57億L
  • 年間燃料費削減額 = 6.57億L × 40バーツ/L = 263億バーツ(約1,052億円)

2.2 パークアンドライドしない車両に対する燃料費削減

パークアンドライドを利用しない105万台に関しても、走行時間が短縮されることで燃料費の削減が期待されます。

  • ガソリン価格: 1Lあたり40バーツ

年間燃料費削減額の推計

  • 1日あたりの削減量(L) = (40km - 20km) ÷ 8km/L = 2.5L/台(渋滞しなくなったことによる本来渋滞場所の燃費改善5km/L→8km/L)
  • 年間削減量 = 2.5L × 105万台 × 365日 = 9.6億L
  • 年間燃料費削減額 = 9.6億L × 40バーツ/L = 384億バーツ

渋滞時の燃費5km/L時との差を求める

  • もともとの年間消費量 = 4L × 105万台 × 365日 = 15.33億L
  • 年間燃料費削減額(5km/L時) = 15.33億L × 40バーツ/L = 613.5億バーツ
  • 差額 = 613.5億バーツ - 384億バーツ = 229.2億バーツ

これにより、パークアンドライドによる都市部車両の渋滞緩和が、105万台に対して年間で229.2億バーツ(約916億円)の追加的な燃料費削減効果をもたらすことがわかります。

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3. 間接効果

パークアンドライドを利用する人、また、それを利用しない残り105万台のドライバーや、それによる都市全体の交通円滑化の影響も考慮します。

3.1 パークアンドライドによる時間価値創出

パークアンドライドの導入により、移動時間の短縮がもたらされ、時間を有効に活用できるようになります。この時間の短縮は、単なる「時間の節約」にとどまらず、経済的価値を生み出します。

  • 通勤時間の変化: 平均2時間20分 → 1時間20分(1時間短縮)
  • 対象車両: 45万台の車両に乗る約45万人(1台あたり1人と仮定)
  • 時間価値: 1時間あたり46.5バーツ

年間時間価値創出額の推計

  • 1日あたりの削減時間価値 = 1時間 × 45万人 × 46.5バーツ = 2,092万5,000バーツ
  • 年間削減額 = 2,092万5,000バーツ × 365日 = 76.3億バーツ(約306億円)

これにより、パークアンドライドによって毎年約76.3億バーツ(約306億円)の時間価値が創出されることがわかりました。

3.2 渋滞緩和によるその他の車両の時間価値創出

パークアンドライドを利用しない105万台のドライバーにも、渋滞が緩和されることによって時間短縮の恩恵があります。

  • 平均移動時間短縮: 1台あたり30分短縮
  • 対象: 105万台 × 1人/台 = 105万人

年間時間価値の推計

  • 年間時間価値創出 = 30分 × 105万人 × 46.5バーツ × 365日 = 89.1億バーツ(約356.4億円)

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4. 経済活動の活発化による影響

渋滞が緩和されることで、都市部全体での消費活動がスムーズになり加速して、経済が活発になります。

  • 1時間あたりの消費増加: 4000万バーツ
  • 経済活動時間: 12時間/日
  • 年間: 365日
年間の経済効果
  • 年間の経済効果 = 4000万バーツ × 12時間 × 365日 = 1752億バーツ(約7008億円)

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5. 総合的な経済効果

これまでの推計をすべて合算すると、年間の総経済効果は次のようになります。

項目 経済効果(億バーツ) 経済効果(億円)
直接効果
パークアンドライドによる燃料費削減 2631,052
パークアンドライドによる時間価値創出 76.3 306
間接効果
渋滞緩和によるその他の車両の時間価値創出 89.1356.4
経済活動の活発化による消費増加 1752 7008
合計 2180.4 8722.4

年間の総経済効果は 2180.4億バーツ(約8722.4億円) に上ると推計されました。

6. まとめ

もともとのタイの経済研究所の見解はこうです。

タイの経済研究所によると、こうした交通渋滞によって人の往来や物流が阻害されることによって、タイ経済全体では年間1600億円もの経済的損失をもたらしているという。 また、渋滞によって1日当たり1億5000万円分もの燃料がむだになっており、大気汚染だけでなく、地球温暖化も加速させている。(2020/01/22)

といわれているので、ここでのわたしの試算は大げさなものかもしれません。渋滞しないことで、効果がさらに別の効果を引き起こす、物と人の流れ、つまり、お金の流れがスムーズになる、という考えのもと、経済全体の動きがスムーズになることを前提としているからです。ただ、パークアンドライドを導入する場合、駐車場の整備や公共交通機関の整備が必要になり、それらの予算が膨大となることでしょう。

しかし、今回の推計では、パークアンドライドの導入により燃料費削減や時間短縮の恩恵が生まれ、さらに都市全体の渋滞緩和によって経済活動が促進されることが明らかになりました。

例えば渋滞が緩和するために協力してくれる人を対象に、BTSなどの利用者にデジタルクーポン等の補助金を一回いくらなど出してバンコク中心部で買い物できるようにするなど、簡単に予算が捻出できそうなくらい効果がありそうです。バンコクの渋滞対策として、パークアンドライドは交通手段の一部だけでなく、大きな経済効果をもたらす政策の一つと言えるでしょう。

今後、政府や都市計画当局がこれらのデータをもとに、より具体的な施策を検討し、渋滞緩和と都市の発展につなげていくことが期待されます。


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