日本人ドライバー森川金也とチーム九州男児の挑戦
夢を追い続けるラリードライバーの軌跡
モータースポーツの世界には、単なる勝敗という結果を超えた感動的な物語がある。森川金也と「チーム九州男児」のアジアクロスカントリーラリー(AXCR)への挑戦は、その最たるものだ。彼の挑戦は、友情と絆、そして情熱に満ちたものだった。
2000年、AXCRへの挑戦が始まる
森川金也がAXCRに挑戦を始めたのは2000年。彼は10年計画でこのラリーに挑むことを決意し、国内レースでの実績を積みながら、着実にステップアップしていった。
2000年4月〜7月
JFWDAチャンピオンシップレースで優勝・入賞を重ね、オフロードレースの経験を積む。2003年
AXCR初参戦。総合10位で完走。2004年
参戦2年目のAXCRで、前年チャンピオンのタイ人ドライバー、ポラポートと運命的な出会いを果たす。それは彼がスペシャルステージで崖に落ちかけたところを助けたことがきっかけで、ここから二人の交流が始まる。
友情が生んだ絆と支え合い
その後も森川はAXCRに挑み続けた。そして、ある年のレース中に彼が横転し、車両修理が必要となった際、ポラポートがスペアパーツ用車両を提供し、彼のチームのメカニックが修理を手伝ってくれた。
この支え合いの精神は、モータースポーツが単なる競技ではなく、人と人を繋ぐものだということを証明している。
2006年
総合7位、Gクラス2位という好成績を残す。2009年〜2010年
順調に順位を上げ、ついに総合4位まで上り詰める。2011年・2012年
念願の表彰台目前、2年連続で総合2位を獲得。
しかし、上り調子であった彼を待っていたのは参戦中止の決定だった。2013年は諸事情によりやむなく参戦を断念するが、ポラポートからの誘いを受け、2014年は彼のチームに所属し参戦。しかし、一時はトップを走行するもエンジントラブルで無念のリタイアとなる。
友情の喪失と戦線離脱
2014年のレース後、森川とポラポートは「来年も一緒に戦おう」と約束した。しかし、約3か月後、ポラポートはタイの高速道路で渋滞中に飲酒運転の車に追突され、車両が炎上。彼は帰らぬ人となった。
親友の死により、森川はレースから身を引くことを決意する。
2023年の決意、再び戦う理由
長い沈黙を破り、森川は2023年にAXCRへの復帰を決める。ただ勝つためではなく、モータースポーツを通じて若い世代に車の魅力を伝え、整備士不足や業界の活性化に貢献することを目的としていた。
2023年
クラウドファンディングを活用し、なんとか参戦。しかし車両トラブルが重なり、総合34位での完走。2024年
さらなる進化を遂げ、総合26位、T1Dクラス15位で完走を果たす。
挑戦は続く
森川金也のAXCRへの挑戦は、単なるレースではなく、友情・夢・使命が絡み合った壮大な物語だ。彼のこれまでの経験が、多くの人々に勇気と感動を与えている。
今後も彼の挑戦は続くだろう。その走りが、多くの人に夢を与え続けることを願ってやまない。
アジアクロスカントリーラリー(AXCR)について
アジアクロスカントリーラリー(Asia Cross Country Rally、以下AXCR)は、アジア地域を舞台に開催される本格的なクロスカントリーラリー競技です。1996年に創設され、日本のラリーストや関係者が中心となり発展してきました。国際自動車連盟(FIA)の公認を受けるラリーであり、東南アジアの厳しい自然環境を舞台に、舗装路だけでなく未舗装路、ジャングル、川渡り、砂漠など多様な地形を駆け抜ける過酷なレースとして知られています。
AXCRの特徴
AXCRは、ダカールラリーのアジア版とも称され、過酷な環境の中で車両とドライバーの耐久性が試される競技です。日本、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムなどを舞台に、国境を越えて走ることも特徴の一つです。
レースにはプロチームからアマチュアチームまで幅広い参加者が挑戦し、四輪・二輪のクラス分けもされています。特に四輪部門では、トヨタ、三菱、いすゞなどの日本メーカーが積極的に参戦し、開発車両の耐久試験の場としても活用されています。
表には見えない課題、地元住民との関係
AXCRはその筋の人々にはメジャーなモータースポーツですが、一般的な認知度はそれほど高くありません。特に開催地となる地域の住民にとっては、日常生活の中で突然レースが開催されることへの戸惑いもあります。
実際、タイでは地元住民との苦情トラブルによりレースが中断することもあります。映像などでも確認できますが、農村地帯や市街地を通過するルートでは、騒音や道路の使用に関する問題が発生することがあり、地域社会との調整が重要な課題となっています。
これはモータースポーツ全般に言えることですが、モータースポーツに興味のない一般住民の理解のもとに成り立っている競技であることを意識し、適切な配慮が求められます。開催側は、事前に地域との合意形成を進めることや、騒音対策、安全管理の強化を図ることで、より円滑な運営を目指しています。
今後の展望
AXCRは今後も東南アジアを中心に発展していくことが期待されています。電動車両やハイブリッド車の参戦も視野に入れ、環境負荷の低減や持続可能なモータースポーツとしての進化も求められています。
また、より多くの人々にAXCRの魅力を知ってもらうために、ライブ配信やSNSを活用した情報発信が積極的に行われています。地域社会との共存を図りながら、アジアを代表するラリーとしての地位を確立していくことが今後の大きな課題となるでしょう。
参考情報等
Team 九州男児が所属するカーショップ4's FactoryのHP